未来の自動車は、100%自動運転で
空も飛べたりするかもしれません。
その頃には動力源は全て電気モータと
思っている人が多いと思います。
しかし実は、2050年になっても、
まだ半分以上の車はエンジンで(も)
動くと予想されています。
電気自動車は、排気口から出す排気は
ゼロでも、それを動かす電気は、
CO2を大量に排出する火力発電所で
主に作られています。
限られたエネルギー源を少しでも有効に
利用し地球環境を汚さないエンジンの
燃焼技術の研究は、
国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)に
貢献できる技術として注目されています。
排気の中の有害物質の含有量を測定するガスアナライザー。
エンジン車の動力源であるエンジンに使用される燃料(ガソリン、軽油、天然ガスなど石油由来のものがほとんど)は、炭素と水素がその主な成分です。エンジンの内部では、その燃料に酸素を加え、高圧力をかけたうえで点火・爆発させ、それを運動エネルギーに変えています。エンジンが「内燃機関」と呼ばれるのは、この仕組みが由来です。エンジン車で問題となるのが、この燃料を燃焼させたときに生成される、有害物質を含んだ排気ガス。ところで皆さんは子どもの頃、「このままのペースでいくと、何年後には石油はなくなってしまう」という話を聞いたことはありませんか。石油を精製して作られるガソリン。その原料である石油がないと車はもちろん、バスやトラックなどありとあらゆる自動車が動かなくなる世界を思い浮かべ、なんだか恐ろしくなった、そんな記憶があるのではないでしょうか。しかし、あれほど無くなると言われていた石油に代表される化石燃料は、底を尽きそうにありません。これには世界的な省エネ・環境意識の高まりや、掘削技術の進歩だけでなく、環境に優しく燃費の良いエンジンの開発、つまり、内燃機関の進歩も大きく貢献しています。
「理想は元の空気よりきれいな排気を出すエンジン」と語る井原先生。
電気自動車とエンジン車、どちらが優れているの?その答えは「どちらも優れている」です。電気自動車が適しているのは、タクシーや配送車などだと言われています。走行距離やエリアが決まっていて、作業終了後には家や事務所に帰ってくるのであれば、使用中の充電切れの心配もほぼゼロ。一方で、大きな力が必要な大型車や、長距離の移動ができるような電気自動車を作るには、現在の技術ではとてつもなく大きく重たいバッテリーが必要です。つまり、そのような用途の自動車には、小さなエンジンでもパワフルに動き、燃費も良いエンジン車の方が適しています。電気モータとエンジンの長所を組み合わせて開発されたもののひとつがハイブリッドのショベルカー。「大きな力が必要なものはエンジン車」と説明しましたが、ショベルカーは重たいものを動かすときには大きな力が必要で、止めるときにも逆向きにブレーキを掛ける必要があり、力をロスしていました。重量物を保持したアームを旋回する際にはエンジンで発電した電気を使い、旋回にブレーキを掛ける際のエネルギーロスを電気に変換して回収する。双方の利点を一つの車にまとめた、新しいエネルギーの使い方を提案する動力システムの実用化が進んでいます。
機械システム工学科の卒業研究で製作された“ヒートポンプ”。
私たちの生活にまだまだ欠かすことができないエンジンの可能性について、高効率・低環境負荷な燃焼技術、つまり自動車をより少ない燃料でより遠くまで走らせ、しかもその排気ガス中の有害成分を減らせる、新しいエンジンを生み出す研究に取り組んでいるのが、大同大学工学部機械システム工学科の井原先生です。効率的な次世代のエンジンを開発する燃焼工学は、機械分野だけでなく多岐にわたる知識・技術が必要で、工学においては“機械らしくない”研究分野だとも評されています。エンジンの燃焼現象は化学反応なので化学工学。エンジンの計測器の制御には電気工学、制御工学やプログラミングの知識も不可欠です。工学、化学、システム学…さまざまな分野の知識を駆使することでやっと燃焼を紐解くことができるのです。「車やロボットなどの機械が好きという人はもちろんですが、新たな研究分野との出会いを楽しめる、そんな冒険心あふれるマインドの学生さんには特におすすめです」と井原先生。燃焼工学は、工学に興味があるなかでも、新しいもの好きでいろいろやってみたい。そんな好奇心旺盛なあなたにピッタリの学問かもしれません。